ATOM

ATOMのテクノロジー かわいい顔して「最先端」

Introduction

人間らしい会話感の実現

世界中にヒューマノイド型ロボットへの憧れを与えてきた『鉄腕アトム』。そのDNAを受け継ぎ誕生した「ATOM」には、最先端ロボット技術が詰め込まれています。なかでも、ほかのロボットと大きく異なるのは、ロボットと人とのリアルな会話を実現するため、富士ソフトが開発したフロントエンドAIとクラウドAIによるハイブリット構造のAIです。

ATOMやPALROに搭載されたフロントエンド AI は、常に人に対するコミュニケーション行動の制御を行い、クラウド AI は分析や解釈など膨大な演算リソースを必要とする処理を行います。状況に応じ2つの AIをハイブリッドで制御することで知能の幅が広がり、親和性の高い“会話感”を作り出すことに成功しているのです。

人が会話に集中し続けるためには、単なる言葉のやりとりだけでなく、相手としっかり向き合っていること、言葉と言葉の適切な間や抑揚、話の内容に適したタイミングでのテンポの良い身振り手振りなどが必要です。また、過去の出来事や記憶に基づく知識や経験、趣味嗜好などの正確な情報をもとに行われる会話は、話し相手に気づきやイメージの膨らみに加え、安心感をもたらします。

こうした人間らしい会話感を実現する、ロボット・コミュニケーション・テクノロジーを支えているのが、ATOMのロボティクスです。この記事では、ATOMに搭載されているメインボード、Raspberry Pi 3、サーボモーターといったハードウェアから、そのロボティクスを解説します。

Mainboard

ATOMの全身を制御するメインボード

ATOM のあらゆる動作と、コミュニケーション行動を支えるフロントエンドA I の根幹基板が、メインボードです。二足歩行をはじめとする動きのバランスをとるための6軸センサー、バッテリー充電中でもATOM 本体が稼動できる充電回路、電源や時刻の管理、サーボモーターやセンサーを制御する専用のマイコンに加え、フロントエンドAIのソフトウェア本体など、ATOM の主要な回路がすべてメインボードに詰まっています。

ATOM の腰のあたりに地面と平行に内蔵されるメインボード。

ATOM のために新規開発されたメインボードは、両面に大量のチップが積まれています。
そのひとつひとつの果たす役割を知れば、この手のひらサイズの基板がいかに重要か分かっていただけると思います。

表面 Raspberry Pi 3 接続部 このコネクト部を通じて「Raspberry Pi 3(通称ラズパイ)」と、リアルタイムに同期通信を行います。6軸センサー 二足歩行や、さまざまなダンスをはじめ、ATOMのモーション・コントロールを支えるセンサーです。前後、左右、上下の3方向を検出できる加速度センサーと、回転の速さを検出できる角速度センサー(ジャイロセンサー)を組み合わせています。移動方向、向き、回転を検出し、さらに移動距離や移動速度を算出することもできます。 USB HUB(4ポート) 小サイズで低消費電力、85℃まで稼働可能なHUB コントローラー。富士ソフト独自の技術「フロントエンドAI」を支える各種メモリに繫がっています。

裏面 STM32 STマイクロエレクトロニクス社製。CPU、メモリ(RAM、ROM)、I/O(入出力)など、さまざまな機能が1チップに収められ「ATOMの頭脳」とも言えるメインボードの中でも、特に重要なチップです。ROMに書き込まれたプログラムにより制御されています。 XMOS 「ソフトウェア定義シリコン」(SDS)とも呼ばれる、独自のアーキテクチャを採用したプログラマブルロジックデバイス。RISCの半導体コア(XCore)をC 言語などで記述することで、ソフトウェア的に制御します。ATOM が充電しながらおしゃべりしたり、上半身を動かせるのは、このXMOS、および充電回路の働きによるものです。 スピーカーアンプ プレーヤーにより入力された信号の増幅や切り替えを行う「アンプ」と、再生そのものを担当する「スピーカー」が一体化したチップです。 充電回路 ATOMのバッテリー充電システムを制御する回路。この回路の働きによりAC アダプタを外しても、内蔵バッテリーで40分前後の稼働が可能になっています。

基板の写真はすべて開発中のもので、細部が変更される可能性があります。

ATOMの動作制御はもちろんですが、ロボットの血液ともいえる電気もまたメインボードで生成され、各基板に送り込まれます。ACアダプターによってDC電源に変換された電源を、メインボード上で各基板や部品に必要な電源に再変換しているのです。バッテリーの充電もそのひとつ。

もうひとつ、ロボットが常に抱える問題が熱の放出です。
ATOMは本体内の温度を常時チェックし、アクチュエーター(サーボモーター)の力を抜いたり、ファンで体内の空気循環を行い、温度を適切に保つように制御しています。さらには、熱の放出が間に合わないと判断すると、要求された動作を声に出して断り、ユーザーに報告します。

Raspberry Pi 3

ラズパイを使った設計思想

イギリスの「Raspberry Pi 財団」が開発した、クレジットカードサイズのシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi 3(通称ラズパイ)」。非常に安価でありながら、モニターやキーボードを繋げば通常のパソコンとして十分に使える性能を秘めた“電子工作の強い味方”です。

実は、ATOMの設計ベースとなった富士ソフトのロボット「PALRO」では、ラズパイは使用されていません。それがなぜATOMで採用されるに至ったか? その理由を、筐体、ロボティクス及びフロントエンドAIを設計・開発した富士ソフトの杉本直輝さんに聞いてみました。

もともとラズパイはアカデミック(研究)用だと思っていたので、私自身は触ったことが無かったんです。そもそもカスタムボードを作ることの方が多いので、ラズパイのような汎用ボードを使うこと自体があまり無い。それでもラズパイを採用した大きな理由は、ストレートに言っちゃうと「コスト」なんです。ですがここでいう「コスト」は、ユーザーに買っていただくための「コスト」で、安けりゃいいという話じゃ全くない。ある一定の経済性を満たしながら、品質と性能と機能を比較し、ラズパイが優れているから選んだのです。ただ汎用ボードを採用すること自体がトライだし、リスクもありますから、ギリギリまで検証しました。実際、同時にBプランとしてカスタムボードの採用も考えて、設計もほぼできていたんですよ。

汎用ボードといっても、いろんな種類があります。そのなかでラズパイはARMのアーキテクチャー*1を搭載していました。ATOMのベースとなっているPALROもARMのアーキテクチャーを採用していたので、いろんな条件が合い、PALROのソフトウェアが、そのまま移行できそうだとラズパイに目を付けたんです。そしてPALROのソフトウェアを、ラズパイのCPU上で動かしてみて、耐久性と品質の検証に入りました。ラズパイは、最終的に数十枚買いましたね(笑)。

まずはCPUをフル稼働させて、壊れないかの品質確認をしました。常温はもちろん、35度くらいの高い室温でもフル稼働させて、CPUを発熱させるんです。24時間動きっぱなしで1か月半くらい、ずっと検証するんです。その結果、一番気になる熱問題は大丈夫だと考えました。実はこのCPUのフル稼働検証、今も動いてるんです。むき出しの状態でいろんなデバイスと全部接続して、それで致命的な問題は1台も起きていません。

とは言っても、トラブルが全く無かったわけではありません。WiFiがつながらなくなるという問題が出てきたんですね。1個壊れ、2個壊れ。これは品質の問題じゃないかと調査した結果、原因は光でした。WiFiのチップって光に弱いんです。蛍光灯の光が直接当たると、無線通信に悪影響を与える。実験環境で温度を上げるために当てていた光が、WiFiのチップにダメージを与えていたんです。これは動作環境の問題です。

しかし、その動作環境の問題が、ATOMの設計に影響を与えることになりました。ラズパイはATOMの背中に縦に載せるのですが、WiFiチップがラズパイの端、ATOMで言うと肩口についているんですよ。CPUの熱は上昇しますから、熱排気を考えると上から熱を逃がしたい。これまでPALROやほかのロボットを作った時は、肩に通気口作ったのですが、ATOMの肩に通気口をあけると光が入り、WiFiチップにダメージを与える可能性がある。だからATOMの肩には通気口をあけず、別の排熱構造を考えました。

こんな風に膨大な検証結果をATOMの設計にフィードバックしていくことで、ようやくラズパイの性能と品質が保たれるんです。ほかにもラズパイに載っているインターフェイス用のPINが、どこまで使えるか?とか。microSDカード*2とラズパイの相性や、書込み耐久の検証もとことんやりました。そうした膨大な数の検証結果と、その原因究明。それに対して解決の方法を見つけ設計に活かしていけるのは、富士ソフトがPALROで培ってきた経験や知見があるからです。

*1:ARMのアーキテクチャ=イギリスのARMホールディングスの事業部門ARM Ltdが開発している、コンピュータの基本設計(方式)。
*2:microSDカード=Raspberry Pi 3はハードディスクなど記録ストレージを搭載しない代わりにmicroSDカードを起動と長期保存用ストレージに利用する。そのため、ボードとmicroSDカードのメーカーごとの相性や、書込み性能はRaspberry Pi 3の性能を左右する。

杉本直輝

ATOMの筐体、ロボティクスおよびフロントエンドAIを設計・開発。日経産業新聞の特集「産業再興ニッポンの独創力」のなかで『若き40人の異才』に選ばれたエンジニア。富士ソフト株式会社 PALRO事業部 商品開発・CS室長。

Servomotor

新開発サーボモーターの驚くべき静音性

「ATOMを作ることが決まり、改めてアトムの漫画を読み返すと、ほとんどのアトムの絵は脚を少し開いて立っている。両脚が「Aライン」を描いています。でもこのポーズはロボティクスのバランス上、非常に難しいんです。このリスクをクリアするために、座るときには一度、片足に重心を移してから座るようにしたのですが、すると次は全身の重量が問題になる。ATOMの重量は1400g前後なのですが、おそらくあと100g 増えたら実現できなかったと思います」(富士ソフト・杉本直輝さんインタビューより)

開発者の言葉にあるとおり、ATOMがアトムであるために、どうしてもクリアしなければならないデザイン上の制約がありました。そのため富士ソフトと、世界No.1 の総合モーターメーカーである日本電産グループの「日本電産セイミツ株式会社」と「日本電産株式会社中央モーター基礎技術研究所」で共同開発されたのが、今回採用されているサーボモーターです。

小型化、軽量化はもちろんのこと、ATOM用サーボモーターには、求められることがいくつかありました。まずは動作時の静粛性です。サーボモーターの稼働音が大きいと、ユーザーが気持ちの面で冷めてしまうだけでなく、音声認識の妨げとなるので、ユーザーの命令を聞き取りづらくなります。対話を妨げない静粛性が絶対条件なのです。もう一つは『鉄腕アトム』のイメージを損なわないよう、スムーズかつ、かわいらしい動作を実現するため、良好な制御性が必要でした。

これらの要件を満たすため、3つの要素にこだわり共同開発は進められました。

●制御基盤
STマイクロエレクトロニクス社製の32bitマイコンを採用し、駆動用Hブリッジ、出力軸角度計測用ポテンショメーター、内部温度モニター用センサ等で構成。ATOMの頭脳であるメインボードとの間では制御パラメーターの整合を行い、常時コンマ数秒周期で通信を行う。

●モーター
小型化と高トルク(回転力・駆動力)化を両立させるために、各極とスロット数、巻線数の最適化を図る。また長期使用に耐えられるように、耐久性のアップにも注力する。

●減速機
軽量化・静音化を実現するために、樹脂ギアを採用。さらに高い出力に耐えられるよう最適設計を行うとともに、日本電産製の近接場音響ホログラフィを使った、騒音の発生源調査も実施された。

すでにドコモショップでの展示や、書店イベントなどで完成版ATOMに触れた方ならお分かりかと思いますが、その滑らかな動作に対し、ATOMの体内に組み込まれた実に18個のモーター音はほとんど気になりません。このサーボモーターだからこそ、静かな自宅の部屋でATOMも一緒に過ごせるのです。

このサーボモーターと高い制御機能を発揮するメインボード、及びロボティクスにより、ATOMは2本足で歩き、動くことを可能にしました。

人と同じように 2足歩行を行うATOMは、重心が常に前方に向かって移動し続ける動歩行を実現。多くのロボットが、重心が常に足の上にあり点から点に移動する静歩行に対し、動歩行は重心が常に動きます。動歩行は慣性を有効活用するため、比較的小さな力で歩き続けることができます。また、小型、軽量なアクチュエーターの採用により、歩行時の省電力化も実現したのです。

動歩行は、重力と重心移動の関係、前後左右のバランス、背丈、体重、動力、加速度……など、さまざまな要素を絶妙に組み合わせて、はじめて可能になります。メインボード内の6軸センサーが移動方向や回転を検知し、距離や速度を算出。姿勢を制御する「倒立振子モデル」に「動歩行」を組み合わせることで、滑らかな二足歩行を実現しているのです。

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